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まずは、備忘録代わりに記録させていただきます。
この日、ワタクシは太郎冠者氏に40円借金してます。
次回会ったらまず返済すること。


OK。


5月23日、マンドリン音楽祭 第1部独奏・重奏部門に、三重奏で出演してきました。
出演までの経緯は、前々記事およびいけやんの記事に。


我々3名に単独で楽屋が当たるというたいへんゼイタクな待遇で、運営の方々にはたいへん感謝しております。
この環境ですので、実行委員のN氏には「練習のしすぎで本番に疲れないように」と釘をさされましたが、結局懸念的中だったような気が……。

指示された楽屋へ到着すると、ドアのところに
「独奏部門・マンドラ」
との表示。
さすがに、グループ名「ドラの穴」では表示しにくかったのでしょうか。


今回、太郎冠者氏・いけやん・ワタクシというメンバー構成での演奏ははじめてということで、太郎冠者氏所属のグループにしてはイロモノ度を抑えた地味な装束での出演となりました。
合わせるところは「黒地に赤いワンポイント」。
いけやんはパニエでスカートをふくらませた黒ワンピースに赤い大輪のコサージュ。
太郎冠者氏とワタクシは黒い帽子、黒スラックス、黒シャツに赤ネクタイ。太郎氏は黒サスペンダー。
ダンディ・ダンディ・フェミニン(by太郎冠者氏)がコンセプトです(後付け)。
ちなみに太郎冠者氏の帽子はマツダユーサク風のヅラがついたものでしたが、今回はコミックバンド度ダウンのため、ヅラ部分はとっぱらっております。
ワタクシのは太郎冠者氏が帽子着用と聞き、前日に急遽購入したカンカン帽です。


演奏会前日、実家でコスチュームを試着してみたワタクシに、母がひとこと。
「あんたたちのグループ、たしかみんなあんたくらいの年頃だったよね。」
はい、四十路前後です……


当日、リハーサルの時刻にコス着用でステージ袖に行ったら、運営側の「何をやらかしてくれるか」期待してくださる方々や、「何をやらかしてくれるか」心配してくださる方々に、色々声をかけていただきました。
ステージに出た瞬間、客席に仲間のリハを聴きにきていた学生団体出演の女子高生数人より笑いが起こり、「大丈夫、スベらない!」との確信を得ました。

この時点で、「今回はイロモノではない」という方向性を、3名とも忘れ果てております。
いや、いけやんの衣装は単独だったら全然イロモノじゃないんですが。
でも、彼女のパニエは床の上に置くと自立します。


肝腎の演奏について言えば、リハで「ステージ上ではお互いの音が聴こえない」ことを確認。
さらに時間切れで全曲通せず。
不完全燃焼で楽屋に戻り、全曲を1回通しました。
演奏会のたびに思うのですが、このリハと本番の間の練習が、たいていの場合ピークです。

本番は、3人が3人とも緊張しまくりでした。
舞台袖で、「大丈夫。その格好で、つかみはOKだから!」と激励していただき、ステージに出たときはつとめてにこやかに……ひきつっていたかもしれません。

あとで第3部に出演されていたTさんから、いけやんの曲を弾くときの太郎冠者氏が、普段からは考えられないくらい緊張していた、というお話をうかがいました。
他人の曲をその作曲者とともに弾く重責でしょうか。
ちなみにワタクシは、ここでの演奏に、ある意味いけやんと太郎冠者氏の曲の命運がかかっていることに、うかつにも本番直前に気付きました。

そのいけやんは、演奏中にとつぜん失踪した部分がありました。
大丈夫、ちゃんとすぐ復帰しましたよ。

ワタクシは、ハイポジションで一度見失うと戻って来られなくなる(しかも、しばしばハイポジをとった瞬間マムシ指になる)部分が何箇所かあって心配していたのですが、その部分については(若干音は外しつつも)なんとか迷子になることなく走行できました。
しかし、心配していた部分より、思いもよらないところの方が本番でやらかすもので、太郎冠者氏の曲の1楽章の最終音、16分の1拍くらいずれていたのはワタクシです。


あまり演奏中トチった話ばかりというのもなんですので、各曲から喚起される個人的な思い出話など語りましょう。

いけやん作曲の「あなたにあげよう」は、誰か大好きな人がいて、その人になんでもあげたくてあげたくてしょうがない、そんな気持ちが主題らしいのですが、それを聞いたとき、一気に大学時代の学校の最寄り駅の待合室に意識が飛びました。

夜の8時か9時頃のことです。
その晩ワタクシは、サークル活動を終えて帰宅するため、待合室で上り列車の到着を待っていました。
待合室には、近所の方とおぼしき若いお母さんが、にこにことゴキゲンな幼児を抱っこして立っていました。
幼児はくりくり天然パーマにしもぶくれのほっぺの可愛いコで、一枚のハトサブレをしっかりと手に握り締め、あたりを見回したり、お母さんと視線を合わせては嬉しそうに微笑みあったりしていました。
やがて、下り列車が停車し、降りてきた人々の群れの中から、スーツにネクタイ姿の若いお父さんが、お母さんと幼児に気付いて歩み寄っていったので、ああ、あの母子連れは、仕事から帰ってくるお父さんを迎えにきたんだなぁ、ということがわかりました。

幼児は満面に笑みをたたえて、握り締めていたハトサブレをお父さんに手渡しました。
お父さんは、ちょっとびっくりしたような嬉しそうな笑顔で受け取ります。
幼児を抱いたお母さんも、微笑んでいます。

たまたま近くのベンチに座っていただけの大学生が、20年の時を経てもまだ反芻できるような幸せのおすそわけをいただいた、あの光景がワタクシの中の「あなたにあげよう」のイメージです。


太郎冠者氏作曲の「3つのマンドラのための組曲3 R-274 〜1.樹海を馳せる 2.霧の海に沈む 3.星の海を見下ろす〜」については、国道274号線を車でドライブしたことがないにも関わらず、かなり明確な映像を思い浮かべながらこの曲を演奏することが、ワタクシにはできます。
というのは、自転車旅行で何度か横切った道だからです。
ルートはちがうけれど、アサヒカワからオビヒロを経由してエリモ岬を回ったときに、十勝晴れの空の下、無人の原野をいちにちじゅう気持ちよく走っていたこともあります。
(その代償として、フトモモに鶏卵大の火ぶくれが複数できましたが。紫外線、侮ズルベカラズ。)

車から見ると、自転車はのろのろ走っているように見えるかもしれません。しかし、実際の速さは違っても、疾走する感覚はそんなに変わらないのです。
一人で平坦なアスファルトをすっとばしているときの、ありとあらゆるものが後ろへ流れていく爽快感。世界の真ん中を切り裂いていくようなあの感覚。
濃霧の底を先が見えずに一人走るとき、真っ白な視界の片隅を、ぼんやりと形のはっきりしないものが現れては消えていくあの感覚。
峠越えで日がとっぷり暮れて、街の灯りを一人見下ろすときのあの感覚。
(このときは、風に乗って羆臭が漂ってきたので、実際はそれどころではなかったのですが。今となってはいい思い出です。)


そんな自分がこの2曲にもつイメージを充分に表現できたかと言うと……ちょっとアレでした。
というか、もし演奏で充分に表現できてたら、こんなとこに駄文で表現しようとしないです、多分。
まあ、本番はたいていそうです。


演奏が終わり、事前の打ち合わせどおり、我々はバラの造花(6個入100円)各一輪を客席に向かって投げました。
……はずなのですが、いけやんのみ投げられず。
後で聞いたら、襟の内側にくっつけておいたバラが服の内側に落ちて取り出せなくなった由。

(ちなみに、演奏会終了後、ゴミを捨てたカドで運営側に迷惑をかけないようにと思い、バラが落ちたと思しきあたりに回収に参ったのですが、見つからず。どなたか捨ててくださったのだとしたら、申し訳ありませんでした。もし、どなたかが拾ってお持ち帰りくださったのだとしたら、望外の幸せです、ありがとうございます。)


我々は、悄然と(嘘)楽屋に戻りました。
「ステージ上には魔物が棲むが、今回は魔物の数が多かった……」(太郎冠者氏・談)

気をとりなおして
「結果は客席の反応が……」と語りかけた太郎冠者氏でしたが、
「結果は……録音CDに……」(いけやん・談)
一気に室温が10度くらい下がりました。
その後は黙々と楽器を片付けながら、モニターで他の出演者の方の演奏を聴きます。


第1部 独奏・重奏部門の出演者は、我々のほかに2組。
高校生コンビのマンドリン独奏・ギター伴奏と、Hさんのマンドリン独奏でした。

第1部は、なにしろ100人以上乗っかれるステージに1人とか2人とか3人とかでポツンと演奏するものなので、彼らのように上手な人々か、ワタクシのように顔面の皮膚の厚みが1.2cmあるうえに心臓にスチールウールが生えてる人々しか出演しません。

高校生コンビは初々しく、真剣に演奏する様子に心を打たれました。どれだけ練習したのか、どんな難しいパッセージもしっかりとした音が綺麗に響いていました。素晴らしかったです。
Hさんの「じょんがら」を演奏会でお聴きするのは都合3度目なのですが、聴くたびに感動をあらたにします。素晴らしかったです。
ほんとに、我々の出番が一番最初で良かったです。

とりちらかした楽屋を片付け終え、第2部 学生団体合同ステージからは客席で聴きました。
2曲目が、アマディの『海の組曲』。何度聴いても良い曲です。
軽やかに流れるような演奏で、たいへん良かったです。
難を言えば、4楽章のラスト近くの音量。あれだけの人数なので、もっと思い切って大きな音を出してほしかったです。
4曲目、桑原康雄『ノヴェンバー・フェスト』は、弦楽器をほとんど打楽器のように演奏する、実に面白い曲でした。
やはり、学生さんにはこういう曲を是非たくさん演奏してほしいです。
そして、しばらく大合奏やってませんが、こういう曲を聴くと弾きたくなります。

第3部 学生社会人団体合同ステージでは、木村雅信センセイの『サルダーナ』と、S崎氏編曲の『ビートルズ・メドレー』が面白かったです。
特に『ビートルズ・メドレー』は、ほぼ年代順に曲が並んでいて、次々大好きな曲が出てくるという、ファンとしては実に嬉しいアレンジです。
周りの客席を見回すと、同好の士は一目でわかります。イスの下で足が踊ってます。
曲目解説に載っていない隠しメロディは、表に出てきたものは全部わかったと思いますが、裏メロになっているのがもっとたくさんあるという話なので、録音CDを受け取ったら聴いて探そうと思います。
ひとつぶで何度も美味しいです。


演奏会後、遠路はるばる聴きにきてくださったazknさんとか、大学時代の後輩のY乃さんとかK子さんとかとお話できたのも嬉しかったです。
Y乃さんとK子さんは、もう一生会う機会もないだろうと思ってたので、嬉しさ懐かしさもひとしおです。いけやんのPRハガキのおかげでした。

また、このときは会えませんでしたが、実家の両親も聴きにきてくれているはずでした。
ここ数年、我々の演奏に対する母の感想が昔の鋭さを欠いてなんだか甘いのですが、母も年をとったんだなぁ、と思って寂しいです。
と言う話を、打ち上げに向かう道々いけやんと太郎冠者氏に語った記憶があります(伏線)。


そう、打ち上げにもおじゃまさせていただいたのでした。
我々に対する感想は、コスとパフォーマンスに関する内容が多かったです。

同じ出身大学の大先輩のDさんに、
「幾狭さんも、いけこさんみたいに思い切って女性らしい格好をすればよかったのに。」
と言われ、瞬時に臨戦態勢に入ったワタクシが
「絶対イヤです。」
と断言したら、Dさんは
「そうか、それなら仕方ないか。」
と、案外あっさり引き下がってくれたので、じゃっかん拍子抜けしました。
もしかしてDさん、しばらく会わない間に丸くなったのでしょうか。
いや、良かったんですけどそれで。
しかし、沸騰したワタクシのアドレナリンをどうしてくれる。

Dさんは、いけやんには「ドリカムみたいだったね」と言っていました。
ダンディ・ダンディ・フェミニン(by太郎冠者氏)な我々のファッションについての感想と思われます。

前述の、第3部に出演されていたTさんは、どっからみても立派なオッサンといった感じのワタクシの装束につきまして、「タ○ラヅカみたいでした」とおっしゃってくださいました。お気遣いありがとうございます。

お向かいの席のK氏には、努力の方向性を間違っている旨をしきりに心配されていました。
コスとかパフォーマンスとかに使う労力を演奏自体に向けるべき、ということです。
まったくもって正論です。
ただ、照れ隠しで衣装の話題に偏っていたため、そっちにばっかりに力を注いでいる印象になってしまったのですが、我々としては演奏に関して最大限努力しておりました。
真面目な話。
結果はアレでしたが。


というわけで、打ち上げでは、我々「ドラの穴」のメンバーは、リベンジの相談に余念がありませんでした。
次回出演の折は、団体名「ドラの穴‐R」となる予定です。

いけやん「なんか、ダンサブルなのやりたいですね。メヌエットとか……」
ワタクシ「おお、いいね。 アルマンドとか、ジーグとか……」
太郎冠者氏「あ、ジーグか。一瞬チークと聞き間違えた。」
ワタクシ「オッサン。」
いけやん「いやたしかにチークもダンサブルかもしれませんが……」
ワタクシ「ルネサンス舞曲とか、そっちの方やりたいですね。」
太郎冠者氏「はい、そっちの方ですね。」
いけやん「衣装もルネサンスにしましょう。私は膨らんだスカートですね。」
太郎冠者氏「すると、僕と幾狭さんは、タイツですか?」
ワタクシ「そうです。ピタピタのタイツで、股間コッドピースにパッドを入れて膨らませます。」
太郎冠者氏「幾狭さんもですか?!」
ワタクシ「そして、いけやんの襟元はエリザベスカラーでキメます!」
K氏「この3人は、禁断の組み合わせだったのか。出会わせてはいけなかったのかもしれない。」
……お向かいの席でK氏がアタマを抱えていました。

ちょっとネタにしてしまいましたが、真面目な話も書きます。
K氏、N氏はじめ、実行委員の皆さま、ありがとうございます。
自前で演奏会ひらく体力のないワタクシ達にとって、音楽祭や四重奏演奏会を運営してくれる皆さまには足を向けて寝られませんです。
打ち上げのはてまで、お世話になりました。


この日、日帰りできる列車はとっくになかったので、ワタクシは実家泊まりでした。
駅の改札前で、いけやんと太郎冠者氏とハイタッチして別れ、実家へ戻ると、母が開口一番。
「あんたたちの衣装、良かったよ。演奏はちょっと寂しかったけど。」
母、健在。

「まあ、今日は他の人たちがすごく上手だったし、あんたたちはこのメンバーで弾くのはじめてだったしね。」
だそうです。
やはりリベンジするしかないでしょう。
ルネッサンス舞曲になるかどうかはわかりませんが、次回が必ずあるということで(時期未定)。


次回団体名
「ドラの穴‐R(リターンズ)〜ヤツらは帰ってくる〜」

乞うご期待。



追記:いけやんの当日のようすについての記事はこちらです。
ステージ写真、および「自立するパニエ」写真あり。