STING『Songs From The Labyrinth』

STINGがJohn Dowlandの曲を歌っているCDを発見して購入した感想なんぞを、本宅の掲示板の方でちょこちょこ書いてたんですが、ここにまとめておこうと思います。

ダウランドかバードの曲を弾きたいと思い、CDか、できたら楽譜がないかなぁ、と検索をかけていたときにこのCDを発見しました。

えええ〜〜〜〜っ??!!
スティングってあのスティングか〜〜!!??
ダウランドってあのダウランドなのかぁぁ〜〜〜!!??

ってくらい、びっくりしました。

スティングは説明不要かと思いますが、ロック歌手だったような気が。
ジョン・ダウランドルネッサンス末期の作曲家。
ヨーロッパ大陸では既にバロック音楽がはやりだしてたけどイギリスはまだルネサンス音楽が主流というあたりでしょうか、ものすごくおおざっぱに言って。
時代的には、シェイクスピアが活躍してた頃の方、といえばイメージがつかめるでしょうか。
この組み合わせにワタクシが受けた衝撃が多少とも伝わっていただければと思います。

共通点といえばイギリス人でミュージシャンということですが。
イギリス人でミュージシャンて、特にクラシックではあまりメジャーな人がいない感じですね。
パーセル(『ムーア人の復讐』など)
エルガー(『威風堂々』など)
ホルスト(『惑星』など)
……あと居るのかよ?って感じです。
ヘタしたらドイツからイギリスに帰化したヘンデル(誰でも知ってるのは『ハレルヤ』コーラスか?)が一番メジャーかも。

しかし、個人的には好きな音楽家が多いのです。クラシック・ポップスを問わず。
イギリスだから、ではなくて、この曲いいなと思ったらたまたまイギリス人の曲だってことが多いのです。
ヘンリー・パーセル、ジョン・ダウランド、ウィリアム・バード、
ビートルズレッド・ツェッペリンキング・クリムゾンデヴィッド・ボウイ、スティング
(こうして改めて並べると、クラシック系とポップス系で知名度にものすごい断層があるような気が……)

そして、
じつは大学生のとき、スティングのライブに行ったことがあります。
ダウランドの曲が入ってるCDを数えたら、10枚くらいは持ってました。
そんなわけで、そっこー買いです。(でも、2年前に出てたらしい……)
4/17にAmazonで購入。4/30に届きました。

2曲目がすごく好きな曲「Can she excuse my wrong」だったんで、まずそれを聴いたんですが、
聴いてものすごくびっくり。いやいやいや度肝を抜かれるとはこのことさ。
実は、この曲をスティング以外の人が歌ってるCDを3人分ばかり持っているんですが、他の歌手は全員美声だったからさ(そりゃそうだ……)。

こんな野太い声で歌われるこの歌をはじめて聴いたよ……。
ついでに言うと、ダウランドの歌でマイクがブレスを全部拾ってるのもはじめて聴いたよ……。

そんなんで、ダウランドが好きな人でも好き嫌いがはっきり別れるかもしれないCDです。
なんというか
スティングの側からこのCDにたどりついた人が聴くと、けっこうイケるかもしれません。
ダウランドの側からこのCDにたどりついた人が聴くと、評価が分かれそうです。
という感じ。
ワタクシはというと、買う前に試聴してたら買わなかったかもしれませんが、聴いてるうちにハマってきました。

エディン・カラマーゾフリュート伴奏・独奏も良かったです。
最初、短いリュート独奏曲「Walsingham」で始まって「Can she excuse my wrong」をスティングが歌う流れがとても自然で良いのです。
曲と曲のあいまにときどきダウランドの書いた手紙をスティングがぼそぼそ朗読(ってのも変な日本語ですが)してるのもなんかしみじみ良かったです。
そのせいか、アーチリュートを持ったスティングの写真が、なんかダウランドとかぶって見えました。別に似てないんですが。

そうそう、スティングがアーチリュートなんですよ。
いや、彼は9割がたボーカルだけの担当なんですけど、リュート二重奏「My Lord Willoughby's Welcome Home(ウィロビー卿ご帰還)」と、ダウランドの手紙読んでる裏で弾いてるのが一回と、二か所だけアーチリュートの演奏を披露していました。
プロのリュート奏者であるカラマーゾフの演奏が素晴らしいのは当然として、スティングの演奏も良かったですよ。

「Flow my tears(Lachrimae)」邦題「流れよわが涙(ラクリメ)」は、けっこう有名な曲で、SF小説のタイトルにも引用されてますが、あらためてイイ曲だなぁ、と思いました。
その「ラクリメ」の他、「Weep You no more, sad fountain」とか「In darkness let me dwell」のような暗くて突き抜けてる曲は、クラシック歌手の美声(特に、古楽をよく歌う歌手の透明感のある声)で聴くとかなりウットリするものなのですが、スティングの独特の声で聴くとまた違った良さが感じられます。
たぶん、どっちも曲の本質を捉えているのだろうと思います。
あるいは、たいそう陽気な方だったというダウランドという人物の本質を。(「明るい光には濃い影ができる」というなんか格言みたいなコトバを思い出します。)
やっぱりスティングはすごいと思ったですよ。声の美しさとか歌の技術とかは(あるにこしたことはないが)最終的には枝葉なのかもしれません。

あ、でも、ヘンリー・パーセルをスティングが歌ってはいけないような気がする。
「Sweeter than rose」とか、彼の野太い声で歌ったらきっとぶち壊しだわ。
パーセルの曲はやっぱり透明感のある美声で技術も確かなクラシックの歌手に歌ってほしい。
相性の問題か?

美声の歌手よりスティングの方が合ってる感じがしたのが、「Fine knacks for ladies」でした。
「ご婦人用の素敵な飾り物、安くてえりぬきの素晴らしい新品!」って歌詞で、
行商人が客を呼ばわってる設定と思われる、たいそう明るい歌です。
たぶん、地面に布を敷いてアクセサリーや小物を広げ、「そこの綺麗なお嬢さん、これなんか似合うと思うよ」とか「ねえそこのお兄さん、彼女へのお土産にぴったりだよ」とか声をかけている感じでしょう。
図々しくてしたたかな……もしかしてフーテンの寅さんか?
「がらくただけど愛がこもっているのさ」とかスティングが歌うと、うさんくさい感じ満点で素晴らしい。

ところで、この歌手とこの作曲家の謎の組み合わせなんですが、スティングがダウランドの曲を「17世紀はじめのポップ・ソング」って言ったって書いてあるの読んでなんだか納得がいきました。確かに仰せのとおりで。